「イスラエルとパレスチナの学生が、互いの肖像画を描きながら、平和について考える」
これは、14年前にシカゴで始まったHands of Peaceプログラムにおける取り組みの一つです。毎年、両地域の学生とさまざまな宗教的背景をもつ学生が集まって、平和を築くための対話とチームビルディングに取り組みます。
参加者である10代の若者たちは、専門家による進行のもと、中東情勢の情報を得ながら、文化と宗教の多様性を学びます。プログラムの目標は、学んだことを生かして、日常生活や地域社会で平和構築に取り組んでもらうことです。
一緒に腰を下ろして絵を描きあうことで、「多くの共通点を発見し、同じ人間だということが分かってくる」と、プログラム実行者の一人、ケリー・メロスさん(米国カリフォルニア州、Encinitas Coastalロータリークラブ会員)は話します。
メロスさんは、2年前からプログラムに関与するようになり、その後、アートの力に注目したワークショップを開始しました。絵を描く際には、大まかなイメージと輪郭に注意するよう学生にアドバイスするというメロスさん。こうすることで、全体の美しさを感じ取り、モチーフとなる相手の細部にこだわることなく、やがてはイスラエルとパレスチナという枠組みを越えて、一人の人間として相手を理解できるようになると話します。
プログラム期間中、参加者はロータリー会員を含むホストファミリーの家に滞在。会員は、地域フォーラムやセミナーでボランティアを担い、その他の平和推進イベントにも積極的に参加するほか、資金サポートも行っています。
対立を超えて
ジム・タツダさん(米国イリノイ州、Glenview-Sunriseロータリークラブ)とゲイル・タツダさんのご夫妻は、プログラムを通じて学生4人のホストファミリーとなりました。ユダヤ系のゲイルさんは、パレスチナ出身のイスラム教徒であるモハメド君を世話したときのことを振り返ります。
家では当時、モハメド君との会話を求める彼の母親から、毎朝のように電話がかかってきました。しかし、ゲイルさんが風邪をこじらせたとき、今度はゲイルさんに電話がかかってくるようになりました。
― この前言ったとおり、ハチミツとレモンのジュースは飲んだ?
― 毎日3回、ちゃんと飲んでる?
こんなときゲイルさんは、ユダヤ系の自分にも、パレスチナのイスラム教徒の友ができたのだと、しみじみと感じたそうです。モハメド君は、その後イタリアに留学し、さらに奨学金でシカゴ郊外のカレッジに進学。卒業時には、彼の両親がパレスチナからタツダ家を訪問するそうです。
このプログラムは人生を変える取り組みだとゲイルさん。ある日のこと、ゲイルさんは、参加者同士の次のような会話を聞きました。
― もし検問所で私を見つけたら、あなたは私に銃口を向けるの?
― そんなことはできない。あたたかく迎えてあげるよ。
プログラム進行中に、ガザ侵攻の知らせが
「経験したことがないような会話の数々に驚くばかりです。普通なら、とげとげしい激論になるのに」
イスラエルからのプログラム参加者、ハガー君はそう話します。「参加することでパレスチナ人への見方が変わるかも、とは思っていました。でも、これほど強い絆で結ばれることになるとは思いませんでした。パレスチナからの参加者は、今や私の人生の一部。いつも話をしています」
イスラエルでは、プログラムの元参加者が集まって、学んだことを土台に支援ネットワークを築くためのセミナーやワークショップを開催しています。ハガー君は現在、イスラエル人とパレスチナ人による青少年サッカー大会を開催するため、友人と協力して市議やサッカークラブとの話し合いを進めながら、イベントの資金集めに奔走しています。「みんな同じ人間だということ、そして、共通の関心をもって一緒に楽しめるということを、参加者に体感してもらいたいんです」
また、高校生のロクサーヌさんは、米国からの学生としてプログラムに参加しました。しかし、プログラム開催のさなかに、イスラエル陸上部隊によるガザ侵攻の知らせが届きました。
参加者同士の争いや仲間割れが起きるのではないか。もう対話は不可能なのではないか。彼女はそう思ったそうです。
そのとき、イスラエル人の女子学生が立ち上がると、何も言わずにしばしの間、頭を下げました。すると全員が立ち上がり、あとは皆で、ただただ涙を流すばかりでした。互いに抱きあい、みんなが一つになれたのはあの日だったと、ロクサーヌさんは振り返ります。
「対立グループの者同士の友情が芽生え、すべてを超越できた、信じられないような瞬間でした」
Arnold R. Grahl